知 覚






あいつが『外でしましょう』と云い出した。
何を、というか何を、である。
俺は手を引かれるまま坂を登り、校門へと連れて行かれた。
「ここで」
「馬鹿かお前は」
「冗談ではありませんよ。僕には超能力があります」
姿が見えなければいいでしょう?
古泉がとんでもないことを云う。
「お前の能力はそういうのじゃないと云っただろう」
お前が。自分で。
「ここでは、それもできるんです」
古泉の云う『ここ』がなんの意味を示すのか俺にはわからない。
俺にわかるのは、古泉がえらく真剣で、真面目な顔をしているということだけだ。
なんだかんだで古泉は、俺には真の意味で嘘を云ったことがないように思う。
こういうのもほだされた、と云うんだろうか。


姿が消えたと云われても、俺は服を着ているし、古泉も服を着ている。
それを脱ぎ始めても、その衣類は他者には見えないのだった。
それがどういう原理なのかは俺にはさっぱりわからない。
ひとつ云える事は、古泉がやっぱりえらく真剣で、真摯だったということだ。
状況を抜かせば、だが。
人の増え始めた校門で、俺達は、する。
門の脇に置かれた鞄は、俺の目にはどう見てもそこに存在しているとしか感じられなくて、はらはらとした気持ちで古泉を見る。古泉は大丈夫です、と目元で微笑み俺に顔を近づけた。口元は視界から消え、どんな表情を形作っているのかわからない。ただ、俺と古泉の唇が同じ形にゆがんでいく、それは事実だ。
「これ」
「ガム?」
「これだけは、誰の目にも見えます」
しかし、落ちているガムを誰も拾おうとはしないでしょう。
古泉はそう云った。事実、視線をくべる者はいても、わざわざ懇切丁寧に拾ってどうにかしようと思うような親切者はいなかった。朝比奈さんならどうだろう。まだ、彼女は来ていない。来て欲しくもなかったが。今、この場には。
「どうです?安心しましたか?」
こんなことで安心できるほど能天気な俺ではない。だが、のこのここいつの云いなりになる程度には変態だったようだ。
「どうでもいいけど、何でガムなんか…」
あまり余裕のない俺に、古泉はさあ、とはぐらかすような笑みを返すだけだった。
そんな古泉の下で、俺は熱く息を吐く。
ちらちらと寄越される視線たちが、俺を見ているかのように思えて、羞恥で顔が赤くなる。
古泉は満足そうにそれを見ていた。







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2007.07.15